研究紹介
放射光X 線イメージングによる多層CNT 糸複合材料の破壊機構の解明
~ CNT糸複合材料のマルチスケールメカニクス ~
先端複合材料開発の研究展開において、現在も強化繊維の破壊特性の向上を追及する研究が世界規模で競合的に進められており、その先端材料に多層CNT が位置づけられている。多層CNT は先端複合材料の強化材料としての利用が期待されているが、既存材料の力学特性を超える複合材料の創製には至っていない。その理由は、多層CNT の撚糸である多層CNT 糸はナノ・ミクロ寸法の材料であり樹脂環境中の破壊プロセスの観察は困難であり、実際の多層CNT 糸強化プラスチックで生じる損傷イベントは十分に理解されておらず、破壊プロセスに基づく力学モデルを構築するには至っていないからである。
本研究室ではこれまでに、2 本の多層CNT 糸をマトリクス樹脂内に平行に埋入したモデル試験片を評価対象として、引張荷重条件下における多層CNT 糸の破壊プロセスを放射光X 線ナノイメージング法により評価している。これにより、引張荷重の増加に伴う多層CNT 糸の破壊プロセスを世界で初めて三次元かつin-situ 逐次に観察することに成功している。さらに、実験に供したすべての試験片において2 本の多層CNT 糸の破断場所は概ね同一平面に存在することが観察されている。この同一平面内での多層CNT 糸の破断の発生は、一方向CFRP の損傷プロセスの初期段階で観察される繊維破断現象と類似しており、多層CNT 糸の破断に伴い隣接する多層CNT 糸に応力集中が生じ、その結果、同一平面での多層CNT 糸の破断が形成されたこと示している。このように、2本の多層CNT糸モデル試料を用いた予備的な検討結果からは、多層CNT糸複合材料の引張強度予測にマイクロメカニクスモデルを適用することができる可能性が示唆されているが、ミクロスケールの損傷イベントである多層CNT糸の破断の連鎖、つまり、破断部の集積を起点としてき裂が不安定的に進展し、最終破断に至るプロセスが生じるか否かを明らかにする必要がある。
[Selected papers]
Decreasing vacancy-defect sensitivity in multi-walled carbon nanotubes through interwall coupling Carbon Trends, 11 (2023), 100266.
10.1016/j.cartre.2023.100266
Machine learning-assisted high-throughput molecular dynamics simulation of high-mechanical performance carbon nanotube structure Nanomaterials, 10(12), (2020), 2459.
10.3390/nano10122459



樹脂内のCNT 糸破断挙動を捉えた世界初の成果
(Spring-8、マルチスケール・マルチモードCT)
形状制約のない力学的異方性材料の簡易な弾性定数計測手法の開発
~ 超音波スペクトロスコピー法と画像マッチング技術 ~
国際的なカーボンニュートラル社会の実現に向けて、輸送機器のさらなる軽量化が求められている。この解決策の一つとして、アディティブマニュファクチャリング技術や材料を適材適所で組合せるマルチマテリアル化が注目されている。このような新しい製造法により作製された製品・材料を安心・安全に使用するためには、作製した製品・材料が想定した機能を有しているか否かの評価が必要不可欠である。特に、構造材料の使用範囲は一般的に弾性変形内であることから、その弾性特性を精度よく評価することが求められている。
固体材料の共鳴振動現象を利用した超音波共鳴法を用いて、3次元・複雑構造・力学的異方性を有する製品・材料の簡易な弾性定数計測手法を開発することを目的としている。本研究目的が達成されれば、一切の機械加工や表面処理を行うことなく全ての独立弾性定数を一度に計測することができることとなり、製品・材料の工程管理・品質検査・品質改善や3Dプリント製新規材料の品質評価などに役立てることができるものとなる。さらに、本法により計測された弾性定数が機械的試験法で測定される標準偏差に収まる測定精度を実現することを目標としている。
[Selected papers]
Determination of elastic constants in complex-shaped materials through vibration-mode-pattern-matching-assisted resonant ultrasound spectroscopy
Go Yamamoto and Yuto Sakuda
Journal of Applied Physics
DOI:10.1063/5.0185423
https://researchmap.jp/Go_Yamamoto
Determination of transverse isotropic elastic constants of nacre and constituent tablets based on genetic-algorithm-assisted resonant ultrasound spectroscopy
Results in Materials, 15 (2022), 100312.
10.1016/j.rinma.2022.100312



金属積層造形法で作製した64チタン(Ti-6Al-4V)の (左)振動実験および(左)有限要素解析により得られた共鳴振動の様子。
超音波スペクトロスコピー法と画像マッチング技術を用いることにより9つの独立弾性定数の計測に成功している。

トラス形状ステンレス部材の独立弾性定数を機械的試験法の標準偏差に収まる精度で計測することに成功している。
カーボンナノチューブ/セラミックス複合材料の破壊メカニズムの解明
~ナノ・マイクロ・マクロの構造と力学特性の関係の解明~
多層カーボンナノチューブ(MWCNT)とアルミナセラミックスからなる複合材料のき裂架橋挙動をその場観察することで,MWCNTの破断を伴う複合材料の破壊プロセスを世界で初めて明らかにした。当該分野の従来の理解に反して,走査型電子顕微鏡下おけるマニピュレーション技術を用いた単繊維引抜き実験に供したすべてのMWCNTはアルミナ母材から完全に引抜けるのではなく、MWCNTに固有の剣鞘型の破壊挙動を示すことを明らかにした。さらには、MWCNTの強度・剛性・形状の選択が複合材料の力学特性向上に極めて重要な設計要素であることを見出し、セラミック母材に対して適切なMWCNTを選択する方法論を提案するとともに、世界トップクラスの曲げ強度ならびに破壊靱性値を有する複合材料の作製に成功した。
[Selected papers]
Nanotube fracture during the failure of carbon nanotube/alumina composites
Go Yamamoto, Keiichi Shirasu, Toshiyuki Hashida, Toshiyuki Takagi, Ji Won Suk, Jinho An, Richard D. Piner, Rodney S. Ruoff
Carbon 49, 3709-3716 (2011)
10.1016/j.carbon.2011.04.022
Microstructure-property relationships in pressureless-sintered carbon nanotube/alumina composites
Go Yamamoto, Keiichi Shirasu, Yo Nozaka, Weili Wang, Toshiyuki Hashida
Materials Science & Engineering A 617, 179-186 (2014)
10.1016/j.msea.2014.08.068

走査型電子顕微鏡内で駆動するナノマニピュレーター


動画(2倍速)
CNT/アルミナ複合材料の破断面からCNT単味の引抜き試験の様子
In-situナノ力学試験法
~TEM観察下におけるCNT紡績糸の破壊プロセス解明~
破CNT紡績糸プラスチック複合材料創製の研究展開において、本来、各スケールによって異なる構造を有する複合材料の設計と創製のためには、ナノ・マイクロ・マクロの「各スケールにおける構造と力学特性の関係」ならびに「スケール間の力学関係」を明らかにすることは必須である。しかしながら、特にナノスケールにおいては実験アプローチによる構造と力学特性の関係を明らかにすることは容易ではなく、現象の本質的な理解に迫ることができる研究は行われてこなかった。
螺旋状の撚り構造を有するカーボンナノチューブ(CNT)紡績糸の自己拘束機構(糸に張力が作用すると螺旋状のCNTが糸の半径中央方向に圧縮力を発生させる機構)の発現により、現在の高付加価値産業を席捲している炭素繊維の力学特性を凌駕するCNT紡績糸が世の中に登場している。CNT紡績糸をプラスチックの強化要素に使用した複合材料創製研究が世界規模で競合的に行われているが、期待に沿う結果は報告されていない。その主たる理由は、CNT紡績糸の半径方向に変位拘束が生じるマトリクス樹脂環境下において、上述した自己拘束機構が発現するか否かが明らかになっていないからである。本研究では、大気環境(TEM内)ならびにマトリクス樹脂に埋入した単糸複合材料を評価対象として、引張荷重条件下におけるCNT紡績糸の変形挙動(負荷ひずみの増加に伴う撚り角度と直径の変化)を世界で初めて明らかにするものである。

Mel-Build社製In-situ Nano Order Tensile TEM Holder


専用カートリッジに橋渡しをしたCNT紡績糸

CNT紡績糸のTEM内引張試験の様子
一方向炭素繊維複合材料の引張強度予測モデルの構築
破断した炭素繊維が隣接する健全繊維に及ぼす応力集中の影響を考慮に入れた数値解析モデルを構築することにより、一方向CFRPの引張強度を高精度で予測することに成功した。この成果は、(ⅰ)マトリクス樹脂中の炭素繊維に複合強度分布を適用、(ⅱ)破断繊維の応力回復挙動の定式化、(ⅲ)繊維破断試験と数値解析による応力集中係数の測定法の構築によるものであり,異なる力学的特性を有するマトリクス樹脂ならびに炭素繊維にも適用することができる普遍性の高い引張強度予測法であることが示されている。
[Selected papers]
Tensile strength prediction of unidirectional polyacrylonitrile (PAN)-based carbon fiber reinforced plastic composites considering stress distribution around fiber break points
Composites Part A, 183 (2024) 108234
10.1016/j.compositesa.2024.108234
Tensile-Strength-Controlling Factors in Unidirectional Carbon Fiber Reinforced Plastic Composites
Composites Part A, 140 (2021), 106140
10.1016/j.compositesa.2020.106140
Considering the stress concentration of fiber surfaces in the prediction of the tensile strength of unidirectional carbon fiber-reinforced plastic composites
Composites Part A, 121, (2019) 499–509.
10.1016/j.compositesa.2019.04.011

ラマン分光法と小型引張試験機を使用した健全繊維表面に
生じる応力集中の直接測定

樹脂内炭素繊維の隣接繊維破断の様子。破断繊維に隣接する健全繊維の早期破断を誘起していることがわかる。
脆性薄膜の破壊特性評価
~高分子フィルムに形成したDLC薄膜の破壊特性評価~
高分子フィルムに脆性薄膜を蒸着した複合フィルムは電子デバイスやガスバリア材として利用されている。これらの複合フィルムは、構成要素
の破断ひずみや熱膨張係数の違いに起因して、薄膜の割れや界面での剥離が生じ、機能性低下の原因となっている。本研究では、実験と計算の両アプロ
ーチから脆性薄膜に生じるき裂発生機構の解明と高い耐久性を有する脆性薄膜の材料開発まで行っている。
[Selected paper]
”Fracture behavior of diamond-like carbon films deposited on polymer substrates”
Go Yamamoto, Tomonaga Okabe, and Noriaki Ikenaga
Journal of Vacuum Science & Technology A, 36, (2018), Article No. 02C101.
10.1116/1.5003683

トポロジー最適化と固有振動解析に基づく部材内部損傷同定法の構築
~固有振動数・振動モードのマルチフィジックス解析~